クロワッサン 1987年7月25日号(平凡出版 ¥410)
上等なひまつぶし7 あがた森魚「バンドネオンの豹(ジャガー)」 早坂暁さん 脚本家やっと帰ってきてくれた。あの、あがた森魚が。しかも、僕が音楽の中でいちばん好きなタンゴにのって。流行や商売を考えず、自分の内部を見つめ続ける彼は、本当に強い男。
なんて不思議な歌だろう。どんな男が歌っているのか...。
15年前、初めて「赤色エレジー」を耳にしたときの驚きは忘れられない。
当時、長い髪をなびかせ、ほっそりした脚に下駄をつっかけたあがた森魚は22歳だった。
「天才ですよ、彼は。ものすごく速くレトロだった」
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でも、2、3年前の「ロックをドンチャカやってた」ころのあがた森魚の音楽には、どうもなじめなかった。
「金色の靴はいてね。その靴はいて歌う曲も彼には似合わなかったな」
せっかく行ったライブハウスのコンサートだけれど、途中で席を立った。大切な友人が遠ざかってしまったようで淋しかった。
それだけに、この春「バンドネオンの豹(ジャガー)」を聴いたときの嬉しさはひとしおだった。
「ああ、やっと帰ってきてくれた!あの、あがた森魚が」
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「あがた森魚も黛ジュンも、抜群に歌がうまい。おとなの心情に訴える力をもっている。こういう本物の歌うたいの人の活躍する場が、もっと広がらないものでしょうか」